う~ん、なかなか人を育てるって難しい……。
とくに信仰者の人材育成ってナゾなんだが。
時代の流れの早い現代では、よけいに信仰する人の人材育成って難しいかも。
多くの教会やお寺が悩んでいることがある。
それが「人材育成」「後継者育成」ということだろう。
うちの宗教でも「育成」が声高々に叫ばれている。
熱狂的な野球ファンの応援くらい叫んでいる。
しかし、うちの宗教でいえば、それだけ叫んでいるのにも関わらず、だんだん信仰する人は少なくなってきている。
日本の人口時代も減っているので、致し方ない部分ももちろんある。
だからと言って、指をくわえてそんな様子を眺めているいるのも違うだろう。
そんな時に、参考になりそうな本に巡り合ったので、ここから順番に紹介していこう。
宮大工の棟梁から「人材育成」を学べる1冊を紹介
宮大工の棟梁、小川三夫さんが書かれた『棟梁 技を伝え、人を育てる』という本だ。
文庫本とは引用ページが違うと思います。
この本は小川棟梁のインタビューをまとめた内容になっており、基本的に話口調で書かれている。
小川さんから直接話を聞いているような気持ちになれる本だ。
まず著者を紹介しよう。
小川三夫(おがわ みつお)
昭和22年生まれ。栃木県出身。
高校生の時に修学旅行で法隆寺を見て感激し、宮大工を志す。
21歳のときに法隆寺宮大工の西岡常一棟梁に入門。唯一の内弟子となる。
昭和52年、独自の徒弟制度による寺社建築会社「鵤(いかるが)工舎」を設立。
平成19年、設立30周年を機に棟梁の地位を更新に譲り、引退。
この本の中では、師匠の西岡棟梁から学んだことをはじめ、自分が棟梁として大切にしていたことを語っている。
本書を紹介しようと思ったのには3つの理由がある。
- 人材を丁寧に育てている
- 人を育てた実績がある
- 信仰にも取り入られる部分が多い
1つひとつ説明していくと、
1.人材を丁寧に育てている
宮大工を育てるとき、時代に流されず、じっくり人材育成をしている。
現代の人材育成は、「いかに少ないコストで、早く育てるか」を求めているように感じる。そんな中で宮大工の人材育成は異彩を放っている。
2.人を育てた実績がある
小川さん自身が100人を超える弟子を育てている。
自身が舎主をつとめた工舎で、常時30人ほどいる弟子とともに共同生活をしていた。
3.信仰にも取り入られる部分が多い
作り上げる建物(神社仏閣)が何百年持つように作られている。
信仰も、生涯をかけて作り上げるものだと考えると、似ている部分が多く、学びが多い。
以上の3つがこの本を紹介しようと思った理由だ。
ではこれから、まきのりがここは特に信仰にも当てはまりそうというポイントを3つ紹介していく。
ではいきまっしょい。
人を育てる3つのポイント
先輩という壁を取り払う
小川棟梁は、多少若くても「任せる」ということが大切だと言っている。
この任せるタイミングには非常に神経を使われているそうだが、先輩という重しをとって、立場や仕事を経験することで人が育つのだという。
そのことを小川棟梁は、1番初めに弟子として入ってきた集団(ここでは一期と呼ばれている)が、独立していった時に感じたという。
以下、引用する。
前にいる先輩という壁を取り払ってやるというのは、言うのは簡単だ。しかし、組織としては大変なことだ。せっかく育てて、一人前になったやつを出すんだから、もったいねえって言えばもったいねえ。
しかし、あの時来た一期の連中は最初からずっといるつもりはねかったんだな。独立して、自分でやるつもりで修行に来てたんだ。
このとき俺は勉強させてもらったな。
重しを外さないと下は伸びないとな。(『棟梁 技を伝え、人を育てる』小川三夫 74頁)
この重しを外して任せるということは、タイミングが非常に重要となる。
もう1つ別の個所から引用する。
任された者も早過ぎたらつぶれるし、施主さんにも迷惑がかかる。
それは絶対にしてはならないことや。
しかし、任せる時期がきたら遅かったら人は腐るで。(中略)
木を扱うにも、人を扱うにも度胸がいるもんや。(『棟梁 技を伝え、人を育てる』小川三夫 103頁)
この2つの引用をまとめると
- 重し(先輩)があると下(後輩)が伸びない
- 任せるタイミングは早すぎると潰れ、遅すぎると腐る
ということではないか。
実際に『棟梁』のなかでは、「先輩が辞めたことで、自分が仕事を任されたからできるようになった」と語る弟子がいた、と紹介されている。
これを信仰団体に当てはめてみるとどうだろうか。
うちの団体でいえば、この辺りの重しというものが、けっこうある。
でも先輩からの圧が「めっちゃ重っ」て感じる時、あるよね。
ただ、子どもが所属する「少年部」であったり若い男の集まりの「青年部」など、団体の中ですみ分けがある。
一定の歳になると、所属する部から先輩(ここでいう重し)が抜けていく仕組みになっているのだ。
そういう意味では、うちの教団もいいところがあるなと思う。
ただ、その青年部へ、上の世代から何か「物言い」がある場合もある。
これでは、はっきり言って青年部としての良さというものが、半減してしまう。
なぜなら、よくも悪くも、上の世代を頼りにしてしまうからだ。
この辺りは、改善する必要があるなと思うが、それは上の方がたが考えることなのだ。
弟子を育てるには忍耐が必要
この「忍耐が大切」というのは小川棟梁が、師匠である西岡氏から聞いた話として語られている。
もともと西岡氏は「法隆寺の鬼」と呼ばれるほど、怖い棟梁だったがそうだ。
一緒に仕事をした小川棟梁にも容赦はなかったという。
しかし、だんだん弟子として抱える人間が多くなり、西岡氏自身が道具を置くようになると、「鬼」と呼ばれていた態度が変わったのだという。
以下、その部分を引用する。
西岡棟梁も薬師寺に行って、大勢を見なければならなくなってから道具を置いたんだ。
そしたら自分で言ってたけど「やってくれてありがとう」と思うって。下手くそな仕事を見ても、「ありがたい」「がんばってくれる」って思うんだな。鬼から神様へ返信や。
しかし、これも大変や。自分やったら、もっと上手にできるんやからな。
だから、上に立つ者の大事なことは忍耐や。これがなかったら人の上には立てない。(『棟梁 技を伝え、人を育てる』小川三夫 91頁)
この引用をまとめると
- 大勢の人をまとめるときは、自分が1歩ひいた場所から見まもる必要がある
- 自分のほうが上手くできる場合も、忍耐強く見守ることが大切
ということだろう。
ここからは、僕自身の体談を語る。
僕自身、30歳を越えて、後輩ができてきている。
小川棟梁が言う通り、そんな後輩に、いろんなことを任せていかないといけないと思いつつも、なかなかうまくいかない。
どうしても自分がやったほうが早い。とか、任せても失敗するんじゃなかと考えてしまうのだ。
人が育つために忍耐強く見守るということを出来ずにいたなと反省した。
真摯で確実な建物を建てる
最後に、小川棟梁が唯一の弟子を育てる手段と言っていることを紹介する。
俺は「真摯な、そして確実な建物を建てること。それが唯一、弟子を育てる手段」やと思っているんだ。
一緒にやったものはそこで学ぶやろ。(『棟梁 技を伝え、人を育てる』小川三夫 84頁)
つまり、
宮大工として、弟子と一緒になって、最高の建物を建てる
ことが唯一の弟子を育てる手段だということなのだろう。
実際、小川棟梁は弟子とおなじ宿舎で、寝食をも共にし、弟子を育てている。
こうした地道な努力があって人は育つのだ。
僕自身、自分より若い人に育ってもらおうとする時、行事を企画することがある。
それも1泊2日の行事だったりする。
今はみな忙しく、教会やお寺でどっぷり修行できるという人が少なくなってきたため、どうしても、短期的な修行?になってしまう。
しかし、本当はそんな短期間では、人を育てるキッカケは作れたとしても、人を育てることなどできないのかもしれない。
信仰という、長い年月をかけて培うものは、宮大工が育つようにゆっくりと寝食を共にしながら育てていくことが必要なのではないか、と改めて思った。
せめて日常の中で信仰に触れるような環境が用意できないか模索中だ。(もちろん信仰を必要としている人に対してだが)
まとめ
では最後に、今回の人を育てる3つのポイントをおさらいする。
先輩という壁を取り払う
・重し(先輩)があると下(後輩)が伸びない
・任せるタイミングは早すぎると潰れ、遅すぎると腐る
弟子を育てるには忍耐が必要
・大勢の人をまとめていくときには、自分があえて一歩ひいた場所から見守る必要がある
・自分のほうが上手くできるが、忍耐強く見守ることが大切
真摯で確実な建物を建てる
・「宮大工として弟子と一緒になって、最高の建物を建てる」ことが唯一の弟子を育てる手段
今回は『棟梁 技を伝え、人を育てる』の中の、「『育つ』と『育てる』」という章のみの紹介となったが、非常に面白い本なので、ぜひ手に取ってみることをおススメする。
以上、「人を育てることに悩む信仰者にオススメする、宮大工の棟梁に学ぶ人材育成」という話でした。
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