【信仰エッセイ】神様から怒涛のごとく届く贈り物を次の人にパスしよう

目次

お中元と信仰の関係

先輩からもらったお中元

昨年、先輩から「お中元」をいただく機会がありました。

こういうのは本当に嬉しいですね。お金がというより気持ちが嬉しいです。
しかし、ただ嬉しいというだけではいけません。

こんな時、誰しもが思うことがあります。それは「お返し、何にしようか」ということです。

この「お返しどないしよ」というやり取りは、そこここで見受けられます。

出産祝いをもらったとき、お土産をもらったとき、子どもへのお年玉をもらったとき等々。

「なにかお返しをしないと」と思うこの感覚、文化人類学などでは「反対給付」と言うそうです。

思想家の内田樹先生は「反対給付」についてこう説明しています。

「贈られた物に潜む力」を軽んじてはいけません。

「贈り物」を受け取った者は、心理的な負債感を持ち、「お返し」しないと気が済まない。

この「反対給付」の制度は地上に知られる限りのすべての人類集団に観察されます。

(内田樹『街場のメディア論』光文社新書169頁)

反対給付とは「お返ししないと気が済まない」という心理的な義務感のこと。

なるほど、この「受けとっちゃったよ」という感覚は、別に日本人特有のものではなくて、全ての人類集団に共通するみたいです。

この「贈り物をうけとっちゃったよ」と感じることで人は「なにか返さないと」とお返しをしようとするのです。

僕もそうです。
その時は、妻と一緒にすぐスマホで先輩へのお返しをカタログから探しはじめました。

お中元と信仰の始まりは似ている

教会のひと
ちょっとまって、この話は信仰と何の関係があるの?

すみません、そうですよね。

一件何も関係がなさそうな今回のエッセイ(といっていいかも微妙な内容だけど)。

しかし実はこの流れ。

そっくりそのまま信仰の世界にも同じことが言えるのです。

なんたって僕らは、常に神様から毎日とんでもない量のお中元(贈り物)をもらっているのですから。

内田樹先生の文章を再度、別の本から引用します。

「これは私宛ての贈り物だ」と思う人が出現したことによって、贈与のサイクルは起動する。

きっかけはなんだっていいんです。「贈与された」と思う人の出現によって贈与が事後的に「あったこと」にされる。

これは「信仰の始まり」と同じです。

「神がいる」と思う人の出現によって「神」という概念は受肉します。(中略)

贈与は「私が贈与した」という人ではなく、「私は贈与を受けた」と思った人の出現によって生成するのです。

(内田樹『困難な成熟』夜間飛行 207頁)

ポイント 「私は神様から贈り物をもらった」という人が神様の存在をはっきりさせる。

この考え方は人類学の大きなテーマである「贈与」に関係があるものです。

贈与とは、すでに誰かから贈り物を受け取ってしまったので、返礼しなければならない。その義務感に急き立てられれて行う行為のこと。

つまり贈与は厳密に言うと、「反対給付」のこととなる。

(参考:内田樹『困難な成熟』夜間飛行 202.203頁

「贈与? なんだかよく意味が分からないよ」

という方も多いかと思うので、次の章で僕の体験を交えながら説明していきます。

引きこもっていたK君が神様からの贈与に気がついた話

お中元と信仰の関係を、ぼく自身の身近な例を挙げて説明したいと思います。
※個人情報なので、一部内容を変更しています。

引きこもっていたK君

僕の知人のK君は、一時期とあることから家にひきこもっていました。人に会うのがいやで、夜中に散歩をする程度で、あとは家でずっとテレビをみる生活をしていました。

そんな時に、ひょんなことから僕が信仰している教えに出あいました。

始めのうちは「宗教なんてうさん臭いものには、賽銭なんぞ一切出さん」といっていたK君。

別に僕としても自分で生活するだけのお金は稼いでいるので、お金が欲しいわけではありません。
なので「それでいいよ」と言って、彼と話しだけを続けました。

神さまからの贈り物に気がついたK君

しばらくして、教えの本山がある場所での講習会があったので、誘ってみたところ、半信半疑でしたが行ってくれました。

それがどうやらK君にとってはとても新鮮だったようです。

普段と違う考え方の中で生活をすることで、自分自身の生活を省みるきっかけとなったようで、そこからは少しずつ家からも出られるようになっていきました。

それからしばらくして、K君はうちの教会に「卵」をお供えしてくれるようになったのです。

なぜ卵なのかはわかりませんが、毎月同じ日に小さな段ボールいっぱいに卵を持ってきてくれます。

これ、僕が思うにK君はどこかのタイミングで「俺は神様から受け取っていたんだ」という神様から自分宛の贈り物に気がついた瞬間だったように思うのです。

これは信仰している人なら、どこかのタイミングで気がつく瞬間があるのではないでしょうか。

ここでは触れませんが、僕にもありました。

つまり僕が先輩からお中元をもらったように、僕たちは神様から、毎日の大量のお中元が届いているのです。(お中元は夏だけのものですが)

その神様からの贈り物に気がついた時、「そのお返しをしないと」という気持ちが生まれるのです。
それがK君の場合は「卵」という形になっていました。

そのうちにK君は、仕事ができるようになっていったのです。

別に僕がすごかったわけではありません。K君が今までもっていた「俺はなにも贈り物を受け取ってこなかった」という気持ち。

それが「俺はうけとっていた」という気持ちに変わっていったのだと思います。

さらに人のお世話までし始めたK君

K君はいつのまにか、近所の足が悪い人などを誘って、参拝にきてくれるようになりました。以前は人のためになんぞ絶対働かん。

というような素振り満点だった彼が、いつの間にか人のお世話をしていたのです。

参拝のみならず、地域のボランティア活動にも参加して、年輩の方がたに食事のサービスなどを行っているときもあります。なんというか、勝手にとんでもない方向に進んでいました。

これには僕も驚きました。

パスを出すと、次のパスが回ってくる

さて、最後にもう1度贈与についてじっくり話を進めましょう。

いつのまにかボランティア活動まで始めていたK君。

そしてここが重要なんですが、人間はこうして自分が持っているものを出すということでしか、次のパスが回ってこないということです。

内田樹先生と岡田斗司夫さんの共著『評価と贈与の経済学』にはこうあります。

人のお世話をするというのは、かつて自分が贈与された贈り物を時間差をもってお返しすることなんですから。反対給付義務の履行なんですよ。(中略)

「全部俺の手柄だ」と考えると、誰にも借りないんだから、誰にも貸さない、誰にももらっていないんだから、誰にもやらないという話になる。

でもそういう人のところには実はお金なんか集まってこないんですよ。

(内田樹先生・岡田斗司夫『評価と贈与の経済学』148頁)

ここではお金の話になっていますが、実際はお金以外のものでも同じだそうです。

内田先生と岡田さんは、サッカーに例えて話を「贈与」のはなしを展開していきます。

内田:あっちからパスが来たから、次の人にパスする、そうするとまた次のパスがくる。そういう風に流れているんですよ。パス出さないで待っていると、次のパスが来ない。来たらすぐにワンタッチでパスを出すプレイヤーのところに選択的にパスが集まる。(中略)

岡田:パスってなんでもいいはずなのに、パスはお金だけなんだという考え方が、僕らが生きている社会に根強く存在しているわけですよね。人間関係の出せるパスって、決してお金だけじゃない。

内田:そうです。自分が持っていないものは全部パスなんです。パスするゲームをしているところに参加すると、「おまえユニフォーム着てないじゃん、着なきゃダメだよ」ってユニフォーム着せられて、(中略)パスするゲームに参加していると、気がつかないうちにゲームに参加するための基本的な条件は周りの人が全部整えてくれるんですよ。

(内田樹先生・岡田斗司夫『評価と贈与の経済学』149頁)

今持っているものを蹴り出さない限り、新たなパスは回ってこない。

K君の場合、ひきこもっているときというのは、もっているボールを誰にも蹴りだすことなくガチガチに抱きしめていた状態だったと言えます。

というか、「自分は何も持っていないのだから、誰か早くパスをくれ!」と心の中で叫んでいたのかもしれません。本当はもうパスをもらっていたのにも関わらず、です。

K君は「自分はすでにパスをもらっていたのだ」と気がついた時、その贈り物を別の形で次の人(神さまや周囲の困っている人)にパスし始めました。

そして、気がついたら良いパッサーになっていたのです。

そう思うと、信仰者というのは「神様からの贈り物(パス)に気がついた人」といえそうです。周囲の信仰している人を見ていてもそれがわかります。

「私は受け取ってしまった」という人は、行動が違うからです。

K君のように、自然とパスを回しはじめちゃうんです。

そう思うと、なんだか信仰ってすごい素敵なものだよなって気になるのは僕だけでしょうか。

神さまからのパスに気がついて、それを周囲の人のに様々な形で送っていく。

そんな信仰者が1人でも増えたら、世界はもっとよい方向に向かうんじゃないかな。

そんなことを思い、このあたりでブログお開きにさせていただきます。

今回紹介した本です。
良かったら手にとってみてください。

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